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SNS時代の健康情報に迷わないために~あなたに本当に合う食べ方の見極め方~

目次

情報があふれる時代、正解は一つじゃない

ネットやテレビ、SNSを見ていると、糖質は1日〇〇g以内に、といった健康に関する数字がよく目に入ります。 これが正解と言わんばかりの情報があふれている中で、つい自分もそれを守らなければ…と思ってしまう方も多いのではないでしょうか?

でも、その情報、本当にあなたに合っているでしょうか?

数字は目安。でもそれは誰の目安?適正糖質について考える

たとえば、『ロカボ』で有名な食・楽・健康協会では「適正糖質」として、1日あたり70〜130gの糖質量を目安にするよう提案しています。 これは1食あたりの糖質が20〜40g、間食は10g以下とする考え方に基づいています。 たとえば、ごはん100gに含まれる糖質は約40gです。 つまり、1食の糖質量を40gに収めようとすると、おかずなどに含まれる糖質も考慮して、1食のごはんの量は80g程度が上限となります。コンビニのおにぎりが100gですから、それ以下の量です。

普段150gのごはんを食べている人がこの基準に合わせようとすると、約70g分ごはんを減らさなければなりません。 そのぶんエネルギーを補うために脂質を増やすことが基本とされていますが、脂質が多い食事は消化に負担がかかることもあり、体質によっては合わない人もいます。

このように「目安」とされる数字も、自分にとって本当に実践できるものなのか? 続けられるものなのか? を慎重に検討することが必要です。

また、同じ糖質量でも、それが適量になるかどうかは人それぞれ異なります。 たとえば、身長150cmの人と180cmの人では、体格や筋肉量に差があるため、基礎代謝(何もしなくても生命を維持するために必要な最小限のエネルギー量)も大きく異なります。 さらに、日常的に立ち仕事や運動をしている人と、デスクワーク中心の人とでは、1日に必要なエネルギー量も違ってきます。

こうした体格や活動量の違いを無視して、すべての人が一律に「1日の糖質量を70〜120gに収めるべき」と考えるのは、人によっては現実的ではないかもしれません。

日本糖尿病学会が発行している糖尿病診療ガイドライン2023でも、糖質量は一律ではなく、個人の身体状況、年齢、活動量に応じて調整する必要があるとされています。これは糖尿病の治療でも同じで、糖質量は個別に設定されるもの。一般の人が自力でちょうどよさを見極めるのは難しいことも多いため、わからないときは専門家に相談するのも一つの方法です。

糖質を減らしたら、栄養素は何を増やせばいい?

糖質制限は、今や広く知られる食習慣の一つとなりました。「とにかく糖質を減らそう」と考える方は、今でも少なくありません。

けれども、糖質を減らすことで、本当にエネルギーは足りているでしょうか?

栄養学の基本では、糖質を減らした分のエネルギーは脂質で補うのが原則です。たんぱく質は本来、筋肉や内臓、ホルモンなど身体の構成要素として使われる栄養素であり、エネルギー源として使うのはあくまで補助的な役割にとどまります。したがって、糖質を減らしたからといって、むやみにたんぱく質を増やすことには注意が必要です。

もちろん、たんぱく質は健康を保つために欠かせない栄養素です。ただし、必要以上に摂りすぎると、体にとって余分な分を処理する負担が増え、とくに腎臓に影響を与える可能性があります。だからこそ「多ければ多いほどよい」ではなく、自分にとって適した量を見極めて摂ることが大切です。

実際、糖質制限の結果として、たんぱく質を過剰に摂取する人が増えています。短期間であれば大きなリスクは少ないかもしれませんが、長期にわたる場合には、腎臓への負担や腸内環境の乱れといった問題が生じる可能性が高くなります。

また、エネルギー不足を補うために脂質を増やすといっても、脂質は消化に時間がかかるため、体質によっては大量に摂るのが難しい人もいます。とくに、揚げ物などに使われる酸化した油の摂取が増えると、消化器症状や体調の悪化につながるリスクもあります。

さらに、糖質を減らすことで主食の量が減り、そこから得られる食物繊維やビタミン・ミネラルの摂取量も減少しがちです。これにより、便通異常や免疫力の低下、疲労感といった体の不調につながることも考えられます。

栄養は「何かを減らしたら、その代わりに何をどう補うか」を常に意識し、バランスを考える必要があります。糖質を単純に悪者扱いせず、自分の体調や生活スタイルとの相性を見ながら、食事内容を調整していくことが大切です。

腸と栄養のバランス:見落としがちな落とし穴

私たちの腸内には、100兆個以上の腸内細菌が住んでいます。この腸内細菌は、消化吸収だけでなく、免疫や代謝、さらには精神状態にまで関わる重要な存在です。

そんな腸内細菌のエサになるのが、食物繊維やオリゴ糖です。ところが、過度な糖質制限により、こうしたエサが不足すると、腸内環境は一気に悪化します。

2021年に筑波大学と森永乳業が行った研究では、糖質制限によって腸内のビフィズス菌や酪酸産生菌が減少し、腸内環境の悪化が報告されています。つまり、糖質の中にも身体にとって必要な「質」があり、むやみに減らせばいいという話ではないのです。

私自身、糖尿病の栄養相談を20年以上行ってきた中で、糖尿病のある方には便秘や下痢などの便通異常や大腸がんを抱える方が少なくないという実感を持っています。もちろん、これはあくまで臨床経験に基づく印象ですが、実際にいくつかの研究では、糖尿病のある人が大腸がんを発症するリスクが高くなる傾向が報告されています。

また、食物繊維と大腸がんリスクの関係についても、多くの研究で「食物繊維の摂取量が多いほど大腸がんリスクが低下する可能性がある」との報告があります。食物繊維は便通を整えるだけでなく、腸内の発がん物質の滞在時間を短くしたり、腸内細菌による有益な代謝物(短鎖脂肪酸など)の産生を促すなど、腸の健康を保つうえで重要な役割を果たしているからです。

そこで最近は私も、腸内細菌検査を取り入れた栄養指導も始めました。今までと違った食事評価の視点ができると好評をいただいております。

腸内細菌が健やかに働くには、食事全体の構成を見直す必要があります。何かを減らすということは、思わぬ影響を引き起こす可能性がある。この視点を忘れないようにしたいですね。

たんぱく質の摂取量はどう考える?

たんぱく質の摂取量について、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人男性で60g、女性で50g程度が目安とされています。これは、平均的な体格の日本人を基準にした数値です。

より個別性を考慮するなら、「体重1kgあたりたんぱく質1g」が健康を維持するための最低限の目安とされており、たとえば体重60kgの人であれば60g/日がひとつの目安になります。 運動量が多い人や筋肉を増やしたい人は、1.2〜1.5g/kgを目指すこともあります。

ただし、必要以上に摂りすぎると、体にとって余分な分を処理する負担が増え、とくに腎臓に影響を与える可能性があります。たんぱく質は体内でアミノ酸に分解されたあと、余分な窒素が尿素として肝臓で代謝され、腎臓から尿として排泄されます。

糖質や脂質が比較的きれいに燃える薪のような栄養素だとすれば、たんぱく質は燃やすと灰が残る栄養素。この灰にあたるものを処理するのが腎臓です。だからこそ「多ければ多いほどよい」ではなく、自分にとって適した量を見極めて摂ることが大切なのです。

栄養素代謝・排泄の負担主に関与する臓器
糖質血糖として利用、余分は脂肪に変換膵臓、肝臓
脂質胆汁・酵素で分解、吸収肝臓、胆のう
たんぱく質アミノ酸に分解→余剰分は尿素→腎臓で排泄腎臓

自分に合う食事は、自分を知ることから

正しい食事を選ぶ前に、まずは自分の今の状態を知ることが大切です。

  • 今食べている食事から、どんな栄養素をとっているか?
    → アプリで食事記録をつけると、栄養バランスが見えてきます。 アプリで記録を続けてみると、「意外と野菜が少ない」「お菓子が多かった」と自分でも気づけるようになり、自然と食事のバランスが整ってきたという声もあります。
  • 食後に眠くなったり、だるくなることはないか?
    → フリースタイルリブレ(14日24時間持続血糖モニタリング)などを使えば、食後の血糖値の変動を可視化できます。 食後に強い眠気を感じていた人が、生活習慣を見直すことで「午後もスッキリ集中できるようになった」といった変化がみられたり、体脂肪率の減少をモニタリングしながら達成された人もいます。
  • 便秘や下痢を繰り返したり、ガスに悩まされていないか?  
    → 腸内細菌の検査をすることで、腸の状態を数値で把握できます。 腸内細菌の状態を知ったことで、発酵食品や自分に合った食物繊維の種類を意識して摂るようになり、「便通が安定した」「肌の調子が良くなった」「食べ方を変えたことでガスの悩みから解放された」と感じる人も多いです。

病院に行くほどじゃないけれど、ちょっと気になる。 そんなときこそ、自分で一歩踏み出して知る手段がたくさんある時代です。
また、糖尿病のある方にとっても、こうしたセルフチェックの方法は、日々の体調管理や食事の見直しに役立ちます。もちろん、治療中の方は主治医や医療スタッフの指導を優先しながら、補足的に活用してみてください。

情報との付き合い方が、食生活を変える

SNSを見ていると、これさえ食べればOK、これを飲めば血糖値が爆下がり、などインパクトのある情報が日々流れてきます。こうした投稿は誰にでも当てはまるよう巧みに演出されており、その背景にはしばしば商品やサービスの販売があることも少なくありません。その結果、不安をあおるようなメッセージが過剰に強調されることもあります。

また最近では、糖質は悪という考え方への反動として、糖質はどんどん摂ったほうがいい、甘いものを制限しない方が健康といった真逆の主張も増えています。一見、自由で魅力的なメッセージですが、これもすべての人に当てはまるわけではありません。

特に血糖値が不安定な方にとって、こうした糖質OK情報を鵜呑みにすることは、体調悪化のリスクをはらんでいます。血糖値が上がる原因は人それぞれ異なり、一律に語れるものではありません。

情報が極端になりがちな今こそ、それは自分に合っているのか?という視点がとても大切です。

健康に関する情報はあふれていますが、大事なのは他人の正解を鵜呑みにしないこと。特に、自分の経験だけで情報を発信している人の言葉には注意が必要です。自分の体と丁寧に向き合いながら、心地よく続けられる自分だけの食べ方を育てていくことが、健康への近道になります。

情報に振り回されるのではなく、自分にとって必要なものを見極めて選びとる力を育てていく。それが、あなたの体を守る本当の知識になります。

このブログは、そんな皆さんが自分に合った食の情報を選ぶ力を育てていくための場所でありたいと考えています。

もし「こんなテーマを取り上げてほしい」「こんなことが気になる」といったご要望があれば、LINEの方までお気軽にご連絡ください。

テーマにもよりますが、私自身が納得いくまでしっかりと調べて、いつかブログで取り上げたいと思います。お時間をいただくこともあるかと思いますが、その点はどうか気長にお待ちいただけたら嬉しいです。


参考文献・出典

  • 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2023」
  • 筑波大学×森永乳業「糖質制限と腸内細菌叢に関する研究」(2021)
  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
  • 日本腎臓学会「CKD診療ガイドライン」
  • Aune D, et al. “Dietary fibre, whole grains, and risk of colorectal cancer: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies.” BMJ. 2011;343:d6617.
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この記事を書いた人

原 なみのアバター 原 なみ 糖尿病専門の管理栄養士

本当は怖い糖尿病を、食事で未然にストップ!
クリニック勤務の糖尿病専門 管理栄養士/累計1万人以上をサポート
糖質制限に頼らず「おやつを食べても血糖値を安定させる」食事メソッド
3食ごはんを食べても血糖値を整える献立の秘訣を発信中
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